魂壷の部屋にポーカードが倒れている。
まるで生き物ではないかのように、ぴくりとも動かない。
壁の奥に縁取られたの坩堝像の両眼が赤い光を放つ。
それを合図にするかのように、
魂壷からカオスが煙状になって噴き出しはじめる。
瞬く間に天井へと広がったカオスの煙は
まるでオーロラスクリーンのような形になり、
カリスマデビルの目元を鮮明に映し出す。
魂壷からビックバンコアほどの大きさの
カオスの塊が現れ、倒れているポーカードの
杖の中へと溶け込んてゆく。
全ての塊が杖へ溶けこむと同時に、
ぱちり!目を見開くポーカード。
そして何事も無かったかのように起き上がり、
カリスマデビルに跪く。
「カリスマデビル様、申し訳ありません。
次界卵の有力な情報を握っていると思われる
少年の仲間を逃してしまいました。
…私めの失態にございます」
さらに深く頭を下げるポーカード。
それに対しデビルは優雅とも聴き取れる声で答える。
「構わぬ…」
はっ、と驚き顔をあげるポーカード。
「余はわざと見逃したのだ…」
困惑な表情のままのポーカード。
やっとのことで口をあけ、
遠慮がちにデビルに問い掛ける。
「失礼ですがデビル様…何ゆえにその様な事を…」
ポーカードの問いを、静かに聞いているデビル。
やがてポーカードの声が途切れると、
カオスに映された両目がにやりと笑う。
「余は、カオスを通じて星戦使たちの戦いを観ていた…」
フェードアウトしていく景色の中、
タケルとカンジーが歩んできた道程が次々と映し出される。
(このシーンには52話「千里ゴーグルOFF!」の予告にて、
バックに流れたタケルとカンジーの映像を使用する)
埴輪のゼウスを抱えたカンジーがタケルに助けを求めてきたとき
カーンに会いたいと願うカンジーを背負ってタケルが山を駆け登ったとき
空中レースでタケルとカンジーが力をあわせて次界卵を目指したとき
カンジーの意外な一面をはじめて見たとき
絶メッ鬼に捕らえられたカンジーを必死で助けようとしたとき
悪魔のアズールを助けることに戸惑っていたカンジーに冷静さを取り戻させたとき
それらの映像の流れ共に、デビルの不気味な声が反響する。
「星戦使はこの聖守を心から守りたいと願っている…
それゆえに奴は希望を持ち、強くなる…
だが…希望は膨れれば膨れるほどその反動も大きい…
余が復活した暁には、この聖守を
我の手でカオスへと取り込んでやろう…
無論、奴の目の前でな…」
画面にはポーチ・コーラルに助けられたカンジーを見て ほっとするタケルの姿が映される。
その次の瞬間、その笑顔の画面にひびが入り、
デビルの言葉が増えるたびに次々と崩れ落ちてゆく。
「その時の奴の恨み、憎しみ、怒り…
それら負の感情が、更なるカオスを生み出すであろう…」
デビルの企みをじっと聞いているポーカード。
そしてポーカードは、あることを思い付く。
「もしやデビル様、あの聖守は戦使の聖守の力を持つ者なのですか!?」
デビルは何かを悟るかのように両瞼を閉じる。
「いや…」
「!?」
「そうではない…」
ポーカードの問いに否定するデビル。
困惑するポーカード。
「あの聖守は戦使の聖守ではなく、奴自身の聖守なのだ…」
「戦使、自身の…」
戸惑った口調でポーカードが繰り返す。
「そうだ…」
デビルの姿が少しずつ薄れてゆく。
「だが、あの聖守が何者であるかなどはどうでも良い…
たとえこの先、戦使がどのような力を手に入れようとも、
心さえ手折ってしまえば、力など容易く崩れ落ちるのだからな…」
デビルの姿を失ったカオスの煙は
次第に収縮し、魂壷のもとへと還ってゆく。
「心は強く、其れ故に脆い。
そう。心を征する者こそが世界を統べるのだ…」
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