男の子が生まれてからちょうど8年、
女の子が生まれてから4年がすぎた夜。
やはり、星のきれいな晩のことでした。
あの夜と同じ雲ひとつない夜空から、
一羽の大きなコウノトリが村へと舞い降りてきたのです。
そう、あのときのコウノトリでした。
もう誰もコウノトリを怖がりません。
8年前とはちがう表情で、村人はコウノトリを迎えました。
その中には、男の子と女の子の姿もありました。
”しあわせ”を運んできたコウノトリのおとぎ話を、
ふたりは赤ちゃんの頃から聞かされて育ったのです。
コウノトリがその様子を見て、
ふっ、と優しくほほえんだように見えた次の瞬間、
コウノトリの羽が、つぎつぎに抜け落ちていきました。
そして、羽がすべて地面に落ちたのと同時に、
コウノトリの皮がぼろぼろと、
まるで漆喰のように崩れはじめました。
羽も皮もなくなってしまったコウノトリ。
いえ、コウノトリであったものは、
ドクロの顔をした死神の姿をしていました。
あまりの恐ろしさに、村の人たちはにげだしはじめました。
みんなががわれを忘れてにげてしまった中で、
兄妹はコウノトリの前に取り残されてしまいました。
まだ幼かった女の子は死神の姿を見て、
気を失ってしまっていたのでした。
男の子だけでは女の子を運ぶことは出来ませんので、
せめて女の子を守ろうと、逃げずにいたのでした。
男の子はなんとかして
女の子を助けることができないかと考えていました。
おかしな村の様子に気づいたお父さんとお母さんも
子供たちを心配して、慌てて家から飛び出してきます。
しかしふしぎなことに、
死神は誰もおそおうとしませんでした。
手にもった鉈(なた)や、
ドクロの杖をふりかざす気配もありません。
何も起こらないことが気になったのか、
村人たちもおそるおそる死神のところへと
様子を探りに戻ってきました。
いつの間にか、空は黒い雨雲におおわれていました。
次第に雷まで鳴りはじめ、
村はぶきみな雰囲気に包まれはじめました。
そして、そんな空に、
死神よりもはるかに大きな王様の姿が映りました。
突然表われた王様の姿に、みんなは不安を抱きました。
空に映った王様が手に持っている杖をかざすと、
突然、男の子と女の子の体が
電撃のようにバチッ、バチッ、と光りはじめました。
その電光は、ふたりの間をつなげようとするかのように
互いの方へと伸びていきました。
そして伸びていったふたつの光がバチッ、
とつながった瞬間、
気絶している女の子の体がひとりでに浮きあがり、
すこしづつ、すこしづつ、
男の子の体へと取り込まれていきました。
あまりのできごとに、だれもかれもが我を忘れていました。
男の子でさえ、自分たちに何が起こっているのか
理解することもできていませんでした。
女の子が男の子の体の中にすべて溶け込まれ、
完全に消えてしまったとき、
男の子の体が太陽のように、白く光を放ちはじめました。
そしてその光はだんだんと大きくなって、
ゾーン全体へと広がっていきました。
やがて広がりきった光は男の子のもとへと戻ってゆき、
かわりに男の子の背中からは
虹のように輝く、光のつばさが生えました。
そして背中のつばさから徐々に光がはがれてゆき、
それは黒い、コウモリのつばさとなりました。
誰もが、言葉を失ってしまいました。
男の子の背中に生えたつばさ。
それはまぎれもなく、悪魔属のものだったからです。
男の子も突然背中に生えてきたつばさに戸惑い、
現実を拒絶するかのように、目を強くつむりました。
しかし、現実は男の子を容赦しませんでした。
「星悪魔よ、目覚めたか……」
空に映る王様は、追い打ちをかけるように
男の子に告げました。
「ちがう!」その言葉に、男の子は耳をふさぎ、
必死になって王様の言葉を否定しようとします。
「そのつばさこそ、破壊のしるし。星悪魔のあかしだ……」
そんな男の子に対して、
王様は残酷にも、淡々とありのままを語ります。
「ちがう」自分が悪魔だなんて。
そんなことを、信じることなどできるはずがありません。
男の子はありったけの声を張りあげます。
「俺は、天使だ!」
そして男の子は両目をかっと見開き、
「父さんと母さんの家族だ!」と、
力を振り絞ってさけびました。
その悲しさ、怒りに応えるかのように
背中のつばさは空に大きく広がったると、
ものすごいスピードで前へとひるがえり、
その動きで大きな突風を生みだしました。
あまりの風の強さに地面はえぐられ、
木々は全て、根元から倒れました。
あの大きな死神も、あっという間に空高く飛ばされ、
影もかたちも見えなくなりました。
村の人たちはただ、呆然と立ち尽くしていました。
いったい今、何が起こったのか。
落ち着いて判断することもできなかったのです。
だれもが言葉を失っているなか、
王様は静かに男の子に語りかけました。
「そうだ、それでよい……
その破壊の力で、世界を滅するのだ……」
空から放たれた不気味な言葉は、
よどんだ空気の中で、何度も何度も反響しました。
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