夕暮れの草原の中、キャンプを張るタケルたち。
キャンプの中ではしゃもじが土鍋のごはんをかき混ぜ、
おたまはひとりでに鍋の味噌汁を混ぜている。
ジューッ、と音を立てるフライパンの上では
ぽんぽん、と勝手に卵が割れてゆく。
しゃもじにもおたまにも卵にも、誰も一切触れてはいない。
「おおおー、すげぇー」
おどろきながら、その様子を見ているタケル。
その隣では物干し竿に洋服が次々と吊るされてゆき、
パチンパチン、と洗濯バサミがそれをとめてゆく。
その下のタライの中では、やはり勝手に衣類が洗濯されている。
服にもタライにも洗濯バサミにも、やはり誰も触れてはいない。
「へぇー、カンジーの魔法って家事全般だったのね」
洗濯機と化したタライを覗きながら、感心してポーチが言う。
「水とか、材料がなければ何もできないんですけどね」
そういいながらカンジーは、人差し指を空にかざす。
指から放たれたやわらかい光は土鍋のまわりを包みこむ。
炊き上がったごばんが、空中で次々におにぎりとなってゆく。
「いやいや、その歳でここまでやるとはなかなかのもんじゃて」
うれしそうにほほえむのは、
ポシェットに憑依したヘッド・スーパーゼウス。
「それに対して……」
ちら、と横目になったゼウスは
「お前らの魔法はちっとも役にたたんのう」
いやらしい目つきでタケルとポーチをからかう。
ピクン!と怒り顔になるポーチ。
(タケルは気にしていないのか、他を向いてよだれをたらしている。)
「あんたが言うな、あんたが!」
ゼウスのヒゲの両端をつまみ、
むにぃぃぃっと力いっぱい引っ張ってゆく。
「ぎゃあああ!痛い、いたい!!」
痛がるゼウス。顔がびよ〜んと伸びている。
「ちょっと、ポーチさん!」
おどろいたカンジーはあわててポーチをたしなめる。
いつもの面々、いつもの展開。
いつのまにやら見慣れた情景。
そうこうしているうちに、日も沈んでしまって……
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