夜が明けようとしていた。
あたりは徐々に明るくなってゆく。遠くの空には渡り鳥の隊列がはばたいていた。
エナメルゾーンのちいさな島々も光を反射して、僅かながらかがやき始めている。
そのうちのひとつにアズールが腰を掛けていた。
アズールの表情はサングラスに反射する光に隠れてはっきりとしないものの、
ひとりたたずむその姿は、どこかさびしげでもあった。
まだ早朝のせいか、アズール以外に誰の姿もない。
遠くを見つめいたアズールの目が、そっと閉じられてゆく。
「みんなどうかしてます、アズールは悪魔なんですよ!」
アズールの瞼には、前日の出来事が焼きついていた。
アズールのことを必死になって否定し、頑なに拒んだ少女。
アズールのことを見ようともしなかったカンジーの仕草や言動の一つ一つが、
頭の中からいつまでも離れずにいる。
「アズールは、悪魔なんですよ!」
カンジーの非難の言葉だけが、アズールの意識の中で繰り返されてゆく。
「そうだ、俺は悪魔だ」
吐き捨てるかのような自分の声でさえも、アズールの頭から消えずにいる。
(ちがう)
カオスの空に覆われた村で、人々はアズールを非難していた。
次々に石が投げられ、罵倒の言葉を浴びせられる。
人々は皆、般若のような形相をしていた。
「この悪魔め!」
(俺は)
「村から出て行け!!」
(悪魔じゃ……)
アズールを攻撃する手は一向にやまない。人々の顔も険しさを増してゆく。
気がつくと、人々の間から長い菫色の髪の女が現れていた。
女はゆっくりと群衆の前へと歩み出る。
ゴーグル越しの女の目はアズールのことをにらみつけていた。
視線は贖罪の余地などないかのように鋭い。
そして、その顔が少しづつ幼くなっていき、カンジーそっくりになってゆく。
やがて目にいっぱいの涙をためて、彼女は大きな声で叫んだ。
「悪魔!」
カンジーの声に、はっ、と飛び起きるアズール。
悪い夢を見ていたせいか息は乱れ、手のひらは汗でびっしょりとしていた。
右手をぎゅっ、と握りしめ、無言のまま何かを考え込む。
太陽はすでに西の空へと傾きはじめていた。
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